2012年2月29日水曜日

小さい人たちといっしょに

「うわあ、お魚がいっぱいいる!」

ある小さい人は会場に入るなり大喜び。

ただしこれ、水族館の話ではありません。現在当館で開催中の「糸の先へ」での話です。ゆらゆらと揺れる薄い布がまるで水の中の世界に見えるのでしょうか。

また別の小さい人は、整然と並んだかごの作品にひとつひとつ名前をつけて、お母さんに教えてくれたそうです。

「子どもを意識した展示ではなく、ただただ美しい展示だからこそ子どもの想像力が自由にふくらむんでしょうね」とはお母さんの言葉。

とてもうれしい言葉です。

小学校から団体見学もちらほら来てくれます。

担当のT学芸員は彼らにこんなふうに問いかけます。「とても美しいね。どうしてこんなに美しいのかな?」

細い糸、薄い布に触れた時、人は(体の大きい小さいに関わらず)みなその美しさにため息をつきます。それはまさしくそこに在るものが細く、薄いからこそ。

目では捉えがたき糸や布は、目以外の感覚でその気配をつかむことを促します。

いえ、より正確に言えば、人はそもそも身体全体でもって物の気配を感受しているはず。なのについつい視覚だけに頼ってしまいがちなのも本当。糸や布は、「目で見たいのにちゃんと見えない、けど気配はちゃんと感じている私がここにいる」という不思議をもたらしてくれるのです。

T学芸員は続けて言います。

「世の中には、この糸や布のように、目には見えないけどちゃんとある、ってものがたくさんあります。同じように、耳に聞こえないけどちゃんとあるってものもたくさんあります。その美しさに心の目や耳を傾けることを忘れずに、毎日を過ごしてくださいね」と。

小学生が書いてくれたアンケートにこんな言葉がありました。

「今日は『美しい』という言葉を知ることができて、うれしかったです。」

これもうれしい言葉です。

そして最後はお決まりの、作品といっしょに影絵遊び。楽しんで帰ってくれるのが、なによりうれしいことですね。

2012年2月23日木曜日

ちらりと会場風景を

「糸の先へ」展、いよいよ会期も折り返し地点となりました。

そこで会場風景をすこしご紹介しましょう。

まずは会場に入ってすぐに広がるのは、、、

















こんな空間。

手前には上原美智子さんが織る「あけずば織」。まるで空気のように薄い布。
左奥には築城則子さんの小倉織の帯がかかり、右奥には堀内紀子さんの「浮上する立方体の内包する空気」が浮かんでいます。

そして奥の黄色い壁を超えると、、、

















向こう側には志村ふくみさんの「半蔀」が。
手前に伸びているのは福本潮子さんの着尺、中ほどにかかっているのが築城則子さんの帯、奥のケースに並んでいるのが鈴田滋人さんの着物です。

くるりと回るとこんな風景も。

















左の壁には福本潮子さんの藍染によるタピスリーがかかっています。奥には志村ふくみさん、松枝哲哉さんの着物が並んでいます。

そしていよいよ最終コーナー。

















手前のケースには関島寿子さんのかごが並び、奥には福本繁樹さんの屏風などが広がっています。

あれ?nui projectがありませんね。

それは会場に来ていただいてからのお楽しみ、ということで。

2012年2月8日水曜日

始まりまして、ごあいさつ

「糸の先へ」展、2月4日に無事オープンし、来場者の皆さまをしずかにお迎えしているところです。

本日4日目、オープンしてはじめてのブログ更新でごめんなさい。

まずは改めて、ごあいさつを。

、、、といっても、会場入口に掲示しているあいさつ文ではありますが。

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 福岡県立美術館はこれまで近代工芸の歴史や状況を検証する展覧会を数多く企画してきました。その成果を引き継ぎつつ、このたび染織工芸やファイバーワークを対象とした展覧会「糸の先へ」を開催します。

 本展で紹介するのは、いまも現役で作品をつくり続けている10組の作家たち。人間国宝(重要無形文化財保持者)である志村ふくみと鈴田滋人を筆頭に、築城則子、松枝哲哉は伝統工芸の世界に現代的な感性を込めて活躍しています。空気のように軽やかで、光のようにきらめく作品を生みだす上原美智子と堀内紀子。染めの本質を追究し、その可能性を広げ続けている福本繁樹と福本潮子。関島寿子のかごは手と素材、作家と自然との交わりをダイナミックに見せてくれます。ヌイ・プロジェクトによる無垢な刺繍は私たちの目を圧倒すると同時に、心を癒してくれるでしょう。

 作品のスタイルは各人各様ですが、そこから共通して浮かびあがるのは細く長い糸、薄く軽やかな布が導く深く穏やかな世界。物理的には存在感も頼りない糸や布が、だからこそ私たちと親密な関係を紡ぎだし、一人ひとりに安堵と抱擁感をもたらしてくれます。糸や布の存在感とはむしろ、その輪郭の内にあるものではなく、私たちを含めた外との関係性のなかで立ち現れるものではないでしょうか。

 作家たちもまた糸や布に導かれて手を動かし、手を動かすことで自身の存在を確かめようとしているのかもしれません。そして作品を見る私たちは、彼らが重ね合わせる生を通して一本の糸の計り知れなさ、一枚の布の懐深さを改めて知り、私たち自身の生をも見つめ直すのです。

 糸という物質の先端を手につかみ、その先に広がる生の奥行きに足を踏み入れること。本展の試みはここにあります。最後になりましたが、本展に惜しみないご協力を賜りました10組の作家方をはじめ、貴重な所蔵作品をお借りしました方々など関係各位にお礼を申し上げます。


20122

福岡県立美術館